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Column / 2022.07.03

山之内すず「芸能界に憧れの人はいなかった」ツラい思春期を救われ続けたヒーローは?

CMやバラエティ番組をはじめ、いまやテレビで見ない日はないほどの活躍を見せるタレント・モデルの山之内すずさん。本誌連載中の新時代表現プロジェクト「1PICTURE1STORY(以下、ワンピク)」vol.3に、インスパイアソング『あの子になりたい』の歌い手として参加した彼女が、本誌bis7月号に初登場。自身の公式YouTubeチャンネルで公開している“歌ってみた”動画が話題を呼ぶなど、歌声にも注目を集めていたが、歌手活動を始めるつもりはなかった。

「私は楽器が得意なわけでも、作詞作曲ができるわけでもないし、自分では歌も上手じゃないと思っていて。だから、『テレビで活躍中の山之内すずが歌手デビュー』という“私名義”のオファーは、有り難いとは思いながらも全部お断りしていたんです。

一方ワンピクは、イラストとストーリーが元になって、楽曲が生まれてボーカルが入る……つまり“作り手みんなが主役”の企画。一人ひとりが繋がって広がっていく感じが好きで、コンセプトにも共感できたので、歌い手として参加してほしいというお話を聞いた瞬間に『挑戦しよう』と思えました。

私には飛び抜けて歌唱力も、素晴らしい声もありません。でも、ふつうな私が歌うからこそ、聴いてくださる方に伝わるものがあるはず。だから等身大の自分を大事にして、レコーディングに臨みました」

ボカロ系楽曲との出合い

『あの子になりたい』の作詞作曲を担当した40mP(よんじゅうめーとるぴー)さんは、ボカロP出身の音楽プロデューサー。山之内さんの、ボカロ系の楽曲とのつきあいは、もう10年以上になる。

「小学4年生のときに友達が、『悪ノ娘』とか『悪ノ召使』とか、“悪ノP(ボカロPのmothy)シリーズ”の曲を鼻歌で口ずさんでいて。『それ、何?』って興味をもって、マネして歌いはじめたのがハマったきっかけです。当時いちばん仲よしの子のお姉ちゃんが、ボカロが好きで。『ぽっぴっぽー(ラマーズPの楽曲)』や“MMD(ミクミクダンス/初音ミクの3DCGムービー)”なんかのミク系コンテンツを、放課後にその子の家のパソコンからニコニコ動画で見ていました。

そこから、MMDをマネしようとして踊り手さんを知って、“踊ってみた”を見ていくうちにいろんな曲を知って、“歌ってみた”でボカロPの曲を聴いて歌い手さんを知って……という流れでした」

近年、ボカロ系の音楽は幅広いユーザーに支持されている。“古参ファン”である山之内さんは、現状をどう見ているのか。

「私が聴き始めたころはまだ、『ボカロ? オタクじゃん』って時代でしたけど、いまは偏見も薄まってきていますよね。たとえば米津玄師さんは『ハチ』名義でボカロPをされていましたし、YOASOBIのAyaseさんやヨルシカのn-bunaさんもボカロPです。

ボカロって無機質な声なのに、すごく感情が乗って聴こえる瞬間があるんですよ。電子音だからこそ、聴く人によって自由な受け取り方ができるんじゃないかなと。

だからこそ、歌い手さんがカバーしたときに、人によって表現の仕方が変わるところがおもしろいと思います。『うっせえわ』のAdoさんも歌い手でしたし、2021年の紅白歌合戦に出場された『まふまふ』さんもニコニコ出身です。私はボカロだから好きなんじゃなくて、『ボカロ曲のなかに、こんないい曲がある』ということなんだと思っています」

毎日学校帰りに泣かされた歌

まわりの子がうらやましい。でも、本当にそれでいいのかな?――思春期の女子が誰しも抱える葛藤を歌った楽曲『あの子になりたい』を、情感たっぷりに歌い上げた山之内さん。背景には、“歌の原体験”があった。


あの子になりたい / 山之内すず 【踊ってみた】 公式YouTubeチャンネル「山之内之家」より

「私はずっと歌が大好きだし、歌に救われてきた人生でした。最近、中学からの親友に『ずっとどこか寂しそうだったけど、何にも話しくれないから私も寂しかった』と言われたぐらい、自分のネガティブな感情を表に出せなくて……。

そのころは『助けて』『背中を押して』とも言えないから、自分を認めて守ってくれるような曲を聴き続けて消化して。私が小学生から圧倒的に救われているのが、シンガーソングライター・ハジ→さんの音楽です。とくに『証。』の歌詞は、私がほしかった言葉が詰まっています。

君の代わりはいない。よくがんばった。ボロボロになるまで我慢して、弱音も吐かずに強がって……と、誰にも気づいてもらえないツラさをやわらげてくれました。毎日、『証。』を学校帰りに聴いて、一回泣いてから家に帰るのが習慣でした」

公式YouTubeチャンネル「山之内之家」では、山之内さんが歌う『あの子になりたい』の“踊ってみた(踊り手のまぁりさん振付)”を自身で熱演する動画も掲載している。

「元々ダンスをやっていたこともあって、体を動かすのは好きでした。小学生のころから“踊ってみた”を見てマネして踊ったり、友達と2人で合わせてみたりするのがめちゃめちゃ楽しくて。どこかで披露するわけでもなかったんですが(笑)。私けっこう飽き性なんですけど、“踊ってみた”だけは10年ずっと続けている趣味で。

物心ついてからから19歳まで心が荒んでいて、ツラい時期が続いていた私の人生で、“踊ってみた”だけはずっと明るかったんです。いつ見ても楽しくなれて、気持ちが上向く唯一の場所で、今も救われ続けています。だから、芸能人に憧れの人はいなかったけど、踊り手さん達がずっと私のヒーローなんです。

とくにニコニコ動画から出てきた人達は、出身地に感謝してる人が多い印象で。たとえば踊り手さんにも、アイドルのオファーがたくさんありますけど、踊り手であることに誇りを持って対応されているのが、すごく伝わってくるんです。

私は、本当に曲を大好きな踊り手さんが、大好きなダンスを楽しんでる様子を見るのが好きだから、上手い下手を問うジャンルじゃないと思っています。いかに楽しんでるか、いかに自分の表現を研究されてるかが大事で、スキル関係なしに楽しめる分野が“踊ってみた”“歌ってみた”なんです」

当時“踊ってみた”動画にも挑戦していたが……。

「中学生のころ、友達とお泊まり会をしたときに遊びで撮った動画をTwitterにアップをしていたんですが、当時はYouTubeやニコニコ動画に投稿するにはどうやったらいいのかわかりませんでした……。

ずっとやりたかったけど、まわりに言うのは恥ずくて一歩を踏み出せずにいたところに、お仕事きっかけでYouTubeに“踊ってみた”を投稿できるようになったんです! 『マジで夢叶った!』って感動しました。実は、“踊ってみた”をするために芸能界に入ったと勝手に思っていましたから(笑)」

『あの子になりたい』には、山之内さんの夢が詰まっている。チームで作り上げるワンピクの魅力は?

「寺田てらさんのイラストに、エミリン(YouTuberの大松絵美)さんが物語を綴り、そこから40mPさんが音楽を生み出して、私が歌わせていただく。そこからMVが出来て、まぁりさんが振付をしてくださった“踊ってみた”を私が演じて投稿する。この“つながっていく感じ”が大好きです。

楽曲がリリースされると歌手ばかりが注目されて、クリエーターさん達が裏方扱いにされてしまいがち。こんなにいい曲やイラストやストーリーの作者が隠れていたらもったいないし、私は悔しいんです。ワンピクは“みんなが主役”のプロジェクト。それぞれの作り手が原案や楽曲に対して、お互いに尊敬し合っていることを感じることができたので、最高でした!」

Favorite Titles of Suzu

・楽曲
ハジ→『証。』『Only One。』
40mP『からくりピエロ』
DECO*27『ゆめゆめ』『弱虫モンブラン』

踊ってみた
わた『どぅーまいべすと!』『モア!ジャンプ!モア!』

<PROFILE>
山之内すず(やまのうち すず)
2001年10月3日 兵庫県神戸市生まれ。2019年ABEMAの恋愛リアリティーショー『白雪とオオカミくんには騙されない♥』でデビュー。SNS総フォロワー数は110万人超。TVCM、地上波バラエティをはじめ、現在放送中の『何かおかしい』(テレビ東京系、毎週火曜24:30~)に出演するなど、女優としても活躍中。好評配信中の「1PICTURE1STORY」vol.3のインスパイアソング『あの子になりたい』が初のデジタルシングルリリース

Looking back on 「1PICTURE1 STORY」

vol.1『すべての絶望は、夜に吸い込まれていく。』(2022年1月号)/楽曲『will(feat. Teary Planet / Day and Night)』

憧れのイラストレーターが、ネットで炎上。擁護する投稿を続けた「私」に、DMでイラストを遺して消えてしまう。イラスト自体の“舞台裏”を描いたメタ作品。物語ラストの希望を描いたインスパイアソングも要チェック!

イラスト/chooco(Twitter:@chocoshi3
ストーリー原案/ぺえ(Twitter:@peex007
ストーリー執筆/神田桂一(Twitter:@pokke0902
楽曲/Teary Planet(Twitter:@Teary_Planet
シンガー/Day and Night(Twitter:@dayandnight_jp
朗読/洲崎綾(Twitter:@suzaki_aya

山之内さんコメント

「ぺえさん原案のストーリーは、本当に現代のリアルを感じました。SNS時代を生きる今、それまでなかったシガラミがあまりにも多くて、何が正解で何が間違いなのか、考えれば考えるほどにわからなくなる――。そんな今を生きる私達に、とても響く作品でした。
それから、楽曲『will』の“汚れた言葉で満ちていくこの時代じゃ 正義なんてかき消されるだけだった”という歌詞がすごく刺さりました」

▷▷▷vol.1をチェックする

 

vol.2『ラブソングを聴きたくなったのは』(2022年3月号)/楽曲『Blend(feat. 一二三 / 長月翠)』

恋愛不感症だった「僕」の唯一の理解者は、幼なじみのチカ。妹のように思っていた彼女のバイト姿を見てこみ上げる、切ない想いの答えとは……。インスパイアソングのタイトルは物語のキーアイテムとリンクしてます!

イラスト/眩しい(Twitter:@MABUSHI__
ストーリー/ななせ(Instagram:@lilyrose0330
楽曲/一二三(Twitter:@Hihumi_v
シンガー/長月翠(Instagram:@miffy00517
朗読/内田彩(Twitter:@aya_uchida

山之内さんコメント

「幼なじみはずっと前から知っているからこそ、成長していくことは、知らないことがたくさん増えていくことでもあります。どこか寂しくて、相手には自分が必要なんだと思っていたくて……そんな淡い恋情が沁みました」

▷▷▷vol.2をチェックする

 

vol.3『私たちの友情は永久不滅★』(2022年5月号)/楽曲『あの子になりたい』

名門女子高のヒロイン“なかよし4人組(名前の頭文字を縦読みしてみると……)”が、卒業5年後の同窓会には妬み合う関係に……。見守り続けた「私」の視点がホラーです。

イラスト/寺田てら(Twitter:@trcoot
ストーリー/大松絵美(Twitter:@oomatsuemi
楽曲/40mP(Twitter:@40mP
シンガー&踊ってみた/山之内すず(instagram:@suzu____chan
朗読/上坂すみれ(Twitter:@uesaka_official

▷▷▷vol.3をチェックする