bis

bis

Column

Column / 2022.08.22

BiSH モモコグミカンパニー初“超短編”小説が描く絆…イラスト×超短編小説×音楽の1PICTURE1STORY Vol.4

bisで連載中のイラスト×超短編小説×インスパイアソングで世界観を表現する次世代プロジェクト「1PICTURE1STORY」。vol.4のストーリー担当は、2023年をもって解散することを発表した“楽器を持たないパンクバンド”BiSHのモモコグミカンパニーさん。メンバーいち多くの作詞を手がけるほか、3月に刊行された初の長編小説『御伽の国のみくる』(河出書房新社)で話題の彼女が、初の“超短編”を綴りました。

モモコさんの“相方”を務めたのは、イラストレーター・からんころんさん。今作では、互いの作品性にシンパシーを抱き合うふたりが、対話を通じて世界観を築きました。からんころんさんのイラストからイメージや空気感を深めるように、モモコさんが綴ったストーリーの舞台は「インターネットの海」。コロナ禍の制限下で大学生活をスタートさせた男子学生“僕”が、ネットを介して出会った“彼女”と論を交わすところから、物語は始まります。

作中のキーワード「誰にも迷惑をかけずに消えたい」が、イラストの海に漂っているのも見どころです。生きづらい現代に投げかける「逃げてもいいんだよ」というモモコさんのメッセージは、現代の“希望”です。うだるような暑さと閉塞感を癒やしてくれる、夏にピッタリの一作。ぜひお楽しみください!

そして、bis読者にうれしいお知らせ。vol.4の歌い手は、佐藤ノアちゃんが務めます! 音楽配信は、10月上旬を予定。「3月のパンタジア」などへの楽曲提供で話題のボカロP「すこっぷ」さんが作るインスパイアソングとともに、どうぞご期待を。

1PICTURE1STORYとは?

イラストレーターが描く1枚の作品と、それをもとに綴られたひとつのショートストーリーを掛け合わせて生まれた「原案」をコンテンツ作品とする、新時代の表現プロジェクト。「原案」の世界観からインスピレーションを受けて作られた「インスパイアソング」をイラスト×ストーリーと掛け合わせ、国内外に新しいエンターテインメントを発信。今後は、コミック、Webtoon、ドラマ、アニメーション、朗読劇化など、クロスメディアで作品を展開予定。

公式YouTubeチャンネルはこちら
公式Twitterはこちら

インターネットダイビング

 カタカタカタ……。キーボードの無機質な音は、まるで僕自身だ。
【授業、まだ始まらんの? 少しこっち帰ってくれば?】
母からだ。最近は、こんなメッセージにもイラついてしまう。 コロナ禍で始まった大学生活。授業はまだ、画面越しでしかおこなわれていない。元々人づきあいが得意なほうでもなかったが、こんな環境で友人なんてできるはずない。なかば強制的に入った語学のクラスのLINEでは、連日のように盛り上がる人狼ゲーム。
——会ったこともない人間と騙し合って一体、何が楽しいんだ?
冷めた指先でトーク画面を閉じる。ここに自分の居場所はない。

 僕が小説サイトにファンタジーの短編を投稿し始めたのは、ここ数カ月のこと。今日も【0】に向き合うのは分かっている。それでも何かを紡ぎ出している実感があり、存在意義を確認できる場所なのだ。
期待もなく、投稿したての作品ページを開く。
【閲覧数:1 コメント:1】
見慣れない数字に戸惑った。ドクドクドク……。脈が速まり、指先が熱を帯びていくのが分かる。力を込めて、コメントを開く。
「下手くそ、消えちゃえ」
血が一気に逆流する。初めてついた閲覧がアンチかよ!
『お前が消』と書きかけて、Backspace。記念すべき読者第一号だ。
『どうしてそう思ったんですか?』 「嘘くさい」
文字どおり、光の速さで届いた言葉に、僕は面食らう。
『だって、ファンタジーだから』
「それは言い訳。ファンタジーだって、現実から生まれるものだから」
ほかに誰も訪れないコメント欄で、即レスを撃ち合う。
「わたし、今日はもう寝る」“彼女”は戦場から去った。

 それからほぼ毎日、コメント欄で論争チャットを繰り広げた。
僕は毎日、“彼女”の意見をちょっとだけ受け入れてやって、小説を直す。 “彼女”は、どんな小さな変化でも気づいてくれた。
「入りはいいんだけどね。起承転結って知ってる?」
『たしかに、ちょっと俺の感性で書きすぎたかなあ』
「そのポジティブ思考、やっぱファンタジーに向いてる。まあマジレスすると、登場人物の設定はすごく良いと思うけど」『やっぱり? 分かってるなー』
こんなやりとりが僕のニセモノの大学生活で唯一、本物だった。

“彼女”は、突然いなくなった。
「わたしね、誰にも迷惑をかけずに消えたいんだ」
慌てて返信したが、何日経ってもコメントは止まったままだ。

 いつしか僕は、小説を直してはコメント欄で“彼女”に報告をするようになった。むなしい。死者への一方通行の祈りみたいだ。
『誰にも迷惑かけないなんて無理だろ! 俺は意地でも消えないから、 みてろ』
……ピロン。「君、メンタル強いんだね。もしかしてマッチョ?」
冷たく固まっていたスクリーンがほんの少し、優しく揺らいだ気がした。
……くそっ、どこいってたんだよ。俺がどんだけ……。
『そう! マッチョは世界を救うんだ。君もトレーニングしろよ』
「今月、初めて笑ったかも。つまんなすぎて、ね」
僕は笑っていた。たぶん君と同じように。

 ここは真っ暗だけど、寂しくない海。ユラユラ漂う君に向かって、 僕は手を伸ばした。冷たくなんてない。

ストーリー/モモコグミカンパニー(BiSH)

2023年をもって解散することを発表した“楽器を持たないパンクバンド”BiSHで、2015年の結成時から活動中。メンバーの中で、もっとも多く作詞を手がける。2018年に初の著作『目を合わせるということ』を刊行。2022年3月に上梓した長編小説デビュー作『御伽の国のみくる』(河出書房新社)が好評発売中

Twitter:@GUMi_BiSH
Instagram:@comp.anythinq_

イラスト/からんころん

2018年より、イラストレーターとして活動開始。徳島県在住。「爽やかに病む」をテーマに、イラストや写真などをツイッターに投稿し、多くの熱狂的ファンをもつ。青を基調とした美しく儚い世界観に、憂いのある人物を織り交ぜ、唯一無二の幻想的なイラストを表現する

Twitter:@smile25_doll
Instagram:@Poisson_suicide

楽曲制作/すこっぷ

2008年12月04日に『ハローグッバイ<旧版>』にてボカロPとしての活動をスタート。少女の儚く壊れそうだが強い感情を歌った楽曲を得意とし、『アイロニ』『指切り』『ケッペキショウ』など、絶大な支持を誇る名曲を数多く生み出してきた。近年はボカロ曲のみならず、楽曲提供も積極的におこなっている

Twitter:@scopscop
YouTube:すこっぷOfficial Channel

歌い手/佐藤ノア

バンド活動を経て、2020年よりソロアーティストとして活動をスタート。2021年に恵比寿リキッドルーム、2022年にはサンリオピューロランドでのワンマンライブも開催。新曲「LADYBUG」が配信中

Twitter:@sugales_noah
Instagram:@sugar_79
Tiktok:@sugalesnoah
YouTube:佐藤ノアofficial